声をまた小さく灯して
息づかいも聞こえるほど静かに
ゆつくりと心の上を彷徨い
辿り着いた先があなたならどれほどすてきでしよう

私は私の物語に住むものであつて
あなたはあなたの物語に生きる人です

しかし今や二人の時を歩んでいるのです
あなたの生は私の生である
私の孤独はあなたの孤独だ


私は最近考えます。
考えることも愚かなことを、絶えず頭によぎらせる。
私は自分という存在の内で
小さく小さくまとまろうと必死に自らを諌めていたが
あなたという人は
あなたという存在を飛び越えて
なんと自由に 絢爛に
妙なる命を燃やして
コスモの火柱が上がり
氷は燃えだして
あなた自身が光そのものになりえるわけです

あなたはここにいると思つていても
あなたの生命は絶えず運動し続けている
無限である
この奇跡が目の前で
あなたの微笑みや涙と共に
一瞬で 終わりとはじまりを繰り返しているのです


あなたの頬に触れれば
白くすきとおつた つめたくて優しい風のような
美しき命の息吹に吹かれて
その静けさに 私は満ちてしまう

淋漓したわたしの恍惚は
夜の斑を縫い
月灯りを織つて
この世界を創造していく
その瞬間だけ 私は宇宙でたつた一つの命になれる
私の息遣いが とても静かですきとおつていく
そしてその静けさすら あらゆるものを破壊し 創造し続けている
この奇跡の内で 私は愛を叫ばずにはいられない
この世界が美しいと 思わざるおえない


あの涙は この日のために
ふりかえる過ちの全てが この日のためにある
今あなたの双手を握るためにあるのだ



静かに静かに
この静謐な時を
あの水面に光る銀波の漣に燻らそう
白皙なる君の肌は 硝子のようにすきとおり反射して
光をたくさんにあつめて
春霞のような あたたかな微睡みを
この静けさいつぱいに満たして

静かに静かに
裸足のままベランダに出て
肌寒さからあなたの心が私に少し近づくのを感じて
月影に浮かべた たわいもない日常の断片を
互いの思い出として 結んでは解き そしてまた結び
私はあなたの夜に忍びこんだ

あなたの孤独は静かで
黙つたまま私に凭れて
時より 口をひらけば
私を少し笑わせる
私の部屋は真つ青になり
憂いが水たまりのようになつて
あなたが息 吹きかければ
光たちて泡沫が浮かび上がっていく


静かな時の歩みを
寄りそうように共にすること


あなたが私に染み込んでいく
わたしにはあなたがある
あなたがある