こんなぼくでも
人生でほんの短い間だけ、倖せだった時期がある

まるで今が倖せじゃないみたいな言い方だけど
あんなに倖せが滲み出ていた日々はない




それは何の生産性もない、何もかもが憂鬱で、ぼくにあるのは音楽と、付き合っていた彼女と過ごす日々のみであった


ぼくはただ過去を美化したいわけではない
ただ自分の中の倖せというものを
そうすることによって補完しておきたいのだとおもう





日常に音楽を鳴らすのが一番嫌になっていた時期だった
なにが音楽だ と、全てが雑音になっていた
それでも求めてしまう自分が情けなくて馬鹿らしかった


しかし日常自体が音楽的であった
音のない場所から音楽が奏でられた
当時はそんなこと感じ得なかったけれど
魂はずっと歌っていたと思う

それは痛々しくて、見るに耐えないものであった
自分にも醜さがわかった、ぼくは震えていた





しかし、倖せを感じていた
毎日のルーティンに嫌気がさしながらも
喜びはあったのだ
愛を求め、愛を受け取っていたのだ

不毛な会話の一言一言が、一つの映画のように劇的だったように思える
これはあまりに美化しすぎだが、僕の中ではそれくらい、彼女との日々は激しいものだった



美しい愛の形とは到底言えない
たわいもない会話と、夢見るようにセックスをしていた
セックスは喜びであった、愛が認められ、自分の存在が赦される気がした
何も告白せずとも、懺悔しなくても、許しが得られた

ぼくの人間のくだらなさも、許されたように感じていた


ぼくは心底弱っていて、神経衰弱で情緒不安定だった
常に何かに怒りを燃やし、すぐ燃え尽き、あとの虚しさに取り憑かれていた


わかりやすく愛を、体を許し、あたたかい言葉と抱擁を彼女はくれた
ぼくはあかんぼうのようだった
どんどん人間として小さくなっていった






その日々は倖せだったと言ったが
戻りたいかと言えば、2度と戻りたくない




なぜこんなことを書くのだろう
見ている人は気分が悪いだろう
しかし、書きたい


僕自身醜い姿なのだが
あの日々にはどうしても、美しさを感じてしまう

信じてもらえないと思うけど、未練とは違うのです
さっきも言ったとおり、戻りたくなんかない

しかし本当に劇的な日々であったこと
音楽は日常の一言一言や、愛撫や抱擁、セックスの合間に溢れていたこと
愛は不完全で、拙いものであったこと
それ自体が美しさであったこと



あの日々は何もかも間違っていて
自分のすることなすこと全てが愚かだった

もうあのような日々を送るのはまっぴらだ
しかし、愛おしいと思う気持ちは間違っているかな




愚かで拙いあの日々の美しさを
いつか何かで伝えられたらと思う

ここに書いたのは、今部屋で座る自分を見つめ直すためだ
今とあの時が繋がる瞬間
ある種の真理が僕の前に横たわる
ぼくは目を凝らすがなかなか見えない
記憶を透し、捏造を繰り返し、言葉を羅列させ
真理は形を変えて、現在と合流する
ぼくはまた悩む、愛について考える
あの娘を思い出す、記憶はまた巡る












日常に於いて
自分の発する言葉が
まるで作られたように感じる瞬間がある


用意されていたかのように、ぼくは何も期待しない

そんな日々が、ちょっと、嫌になってきている